入れ歯(義歯)治療について

入れ歯ってなぜ必要なのでしょう

a)噛めるようになる

歯が無いと噛めません。入れ歯を入れることにより噛んで食べられるようになります。ただし自分の歯に比べると部分入れ歯で噛む力は3分の1程度と言われています。

b)見た目が良くなる

歯と歯ぐきには唇や頬を内側からささえる働きがあります。歯を失うと歯ぐきも痩せるため、頬や唇にしわがよることがあります。入れ歯は歯だけでなく歯ぐきも補ってくれるので、しわを減らす効果もあります。

c)しゃべりやすくなる

歯を失うと、空気が漏れて発音しづらくなります。とくにサ行やタ行に影響しやすく、滑舌も悪くなることがあります。入れ歯を使うと、最初は発音しづらく感じますが、多くの場合、使い慣れることによって明瞭さを回復することができます。

d)かみ合わせが悪くなるのを防ぐ

歯を失うと、周囲の歯はその空いたスペースに向かって自然と動きます。隣の歯が傾いたり、本来かみ合う歯が出っ張ってきてぶつかり上下の歯がかみ合わなくなったりするのです。入れ歯によってこうした事態を予防できます。

e)残っている歯を守る

歯の本数が減ると、噛む力が残った歯に集中してかかり、負担が大きくなります奥歯がなくなると、前歯に力が集中して出っ歯になってしまうこともあります。入れ歯を使うと、このような事態を軽減できます。


入れ歯(義歯)の種類

一般に「入れ歯」と言われますが、歯科の専門用語としては「義歯」とか「床義歯」といいます。ブリッジも学問的には広義の「義歯」に含まれるので、入れ歯は「床義歯」ですというのが正確なのだとは思いますが、歯科医院では義歯といえば床義歯を指すのが一般的かと思います。

 

 義足とか義眼とかいいますが、義歯も自分の失った歯の代わりをする人工物という意味ですね。

 

「床」というのは、失われた歯のかわりに食べ物を咀嚼する人工歯をつないで支えている、ピンク色の部分です。歯を失うのに伴って、歯ぐきやその中の骨も失われていますので、そのような組織を補う部分が必要なのです。また、この「床」の部分は大切な役割があります。入れ歯が浮いたり、落ちてこないようにする役割や噛む力を歯ぐきの骨に均等に伝える役割などです。

 

 

また、入れ歯(義歯)は残った天然の歯の有無により大きく分けて、総入れ歯(総義歯、全部床義歯)と部分入れ歯(部分(床)義歯)に分けられます。

 

一本も自分の歯がない場合が総入れ歯で、一本でも自分の歯が残っていて、失った部分だけを補っているのが部分入れ歯です。


総入れ歯について

a)総義歯の難しさ

 

総義歯は粘膜の上にのせて使う装置です。食事中に加わる力はすべて粘膜が負担しています。

粘膜は本来は義歯を支えるために存在しているわけではありません。義歯というのはこの上下の顎の粘膜の上に硬いプラスチックの塊を置いた状態で、その間に食べ物をはさんで噛む装置です。

 ですから義歯を用いて痛みなく快適になんでも食事ができるようになることはとても難しいことです。

 粘膜の負担能力と義歯にかかる力のバランスをとる必要があるのです。そのために、粘膜を覆う範囲を適切に設定し、人工歯を並べる位置も慎重に決めていかないといけません。

 

b)治療の流れ(例)

 

i.概形印象採得

ii.筋形成、本印象採得

iii.咬合採得

iv.ゴシックアーチトレーシング(水平的咬合位の採得)

v.配列試適

vi.完成

vii.調整

 

「印象採得」とは歯ぐきの型を取ることです。型を取ったら次に出来上がってくると思ってしまう患者さんもおられますが、そうではありません。型を取ることだけでも2回以上行います。これは歯ぐきという柔らかい組織の型を取るために必要なことです。

かみ合わせを取るのもかみ合わせの高さだけではなく、水平方向の位置も別々の方法で記録します。

 かみ合わせを1回で済ませることもゴシックアーチを実施しないで製作することも可能ですが、誤差が出てしまい、出来上がりの質に関わりますのでうちでは手を抜かずに実施しています。

 

c)保険の総義歯と自費の総義歯

 

保険の総入れ歯と自費の総入れ歯の違う点は

 

1)時間と手間をかけて作ることによる、精密さ 

 

2)自費だと口蓋部に金属を使うことができて、薄く強く作ることができる。

 

 この2点にあると考えています。

 

その結果、自費の総入れ歯は保険のものと比べて、

 

1)装着感が良い 2)よく噛める 3)見た目が自然になる。 

 

   といった特徴があると考えられます。

 

d)自費の総入れ歯の費用

 

i.チタン床総入れ歯 30万円(税別)

 

ii.コバルトクロム床総入れ歯 25万円(税別)

 

金属の種類が違うので、チタン床の方が、より軽く薄く作ることができます。コバルトクロム合金の義歯も保険のレジン床義歯に比べるとずっと薄くできます。


部分入れ歯について

a)基本の部分入れ歯(クラスプ・デンチャー)のしくみ

 

写真の部分義歯はピンク色のプラスチックで粘膜に接していて人工歯を支えている「床」という部分と、大連結子と「クラスプ」と呼ばれる維持装置からできています。

人工歯で対向する歯とかみ合って食物を咀嚼し、人工歯から伝わる力を床が粘膜に伝え、クラスプが残存歯に伝えます。

クラスプは義歯が外れないように残存歯をつかむ働きもしています。

維持装置としてはクラスプが一般的ですが、アタッチメントというものや、テレスコープと呼ばれるものもあります。

 

b)保険の部分入れ歯と自費の部分入れ歯の違い

 

保険の総入れ歯と自費の総入れ歯の違う点は

 

1)時間と手間をかけて作ることによる、精密さ 

 

2)自費だと口蓋部に金属を使うことができて、薄く強く作ることができる。

 

3)保険では認められていない設計(RPIクラスプ、ミリングデンチャー、アタッチメントなど)を使うことができる。

 

 この3点にあると考えています。

 

その結果、自費の総入れ歯は保険のものと比べて、

1)装着感が良い 2)よく噛める 3)見た目が自然になる。 4)残存天然歯を守る

 といった特徴があると考えられます。

 

c)自費の部分入れ歯の種類

 

i.金属床部分入れ歯(クラスプデンチャー)

保険の入れ歯と同じようにクラスプを用います。保険では使えないタイプのRPIクラスプを使うことが可能です。目立たず、歯の負担が少ないクラスプです。また、口蓋や舌の前歯の裏などを金属で薄く作ることができるので、剛性が高く、違和感が少なくなります。

保険の入れ歯よりもずっと精密さが高いので、残った天然歯に負担がかかりにくく、長持ちさせることができます。

歯を削る量は少ないです。

 

ii.パーシャルパラレルミリング部分入れ歯

残った歯(支台歯)にメタルセラミッククラウンをかぶせて、そのメタル部分と金属床部分入れ歯がはまり込むように同時製作する義歯です。支台歯と義歯がぴったりはまるので、がたつきは非常に少なく、よく噛める義歯になります。支台歯がすでにかぶせ物でない場合は歯を削る量は多くなります。また、土台となる歯に動揺があったり、歯周病の問題が残っている場合は向きません。

 

 

iii.MTコネクター

大阪の歯科技工士の宮野たかよし氏が発明した部分入れ歯です。ただし入れ歯とはいうものの、普通の入れ歯とは全く異なります。クラスプは無く、床も非常に小さくできています。金属の薄いプレートが維持のためについていますが、外からは見えません。

 残りの歯は健康であれば全く削りません。

 

 

 

iv.インプラント・オーバー・デンチャー

インプラントは多くの場合、固定性の歯を入れるのに使われますが、入れ歯を安定させる装置として用いることもあります。

これにより、総義歯や部分義歯が安定し、よりよく噛めるようになります。

義歯が安定すると、歯ぐきの骨が減ることを防ぐ効果も期待できます。

固定性のインプラント補綴物を入れるよりも埋入するインプラントの本数を少なくできるため、費用は固定式のものより抑えることができます。

将来埋入するインプラントを増やして固定性のの補綴物にすることも可能です。

 下顎の総義歯はケースによっては安定させることが難しいものです。下顎の総義歯のためのインプラント・オーバー・デンチャーは最もインプラントの恩恵の大きいケースの一つだと言われています。

 

v.ノンクラスプデンチャーなど

義歯床のピンクの部分を延長してクラスプの働きをさせる所謂「ノンクラスプデンチャー」については、当院では取り扱いはしておりません。

 

d)自費の部分入れ歯の費用

 

1床15万円~50万円程度です。ケースによって様々ですので、医院で相談ください。(電話では診断できませんので、費用の問い合わせはご遠慮ください)


インプラントか入れ歯かブリッジか?

歯を失った場合、そのまま放置すると隣の歯が傾いてきたり、かみ合う相手の歯が伸びてきたりします。その結果、歯並びが悪くなったり、噛みにくくなったり、歯みがきしにくくなって口臭の原因になったりします。

 ですから、たいていの場合は歯をなくしたままにすることは好ましくありません。(ケースによってはそのままでも問題ない場合もあります)

 

歯を失った場所を補う方法としては、インプラントという方法があります。これは歯ぐきの骨に人工の歯根を埋め込んでそこに歯を立てていくという方法です。

もう一つの方法はブリッジという方法です。

両隣の歯を削ってひとつながりのかぶせ物にする方法です。

例え健全でも隣の歯を削る必要があることと、本来3本や4本の歯根で支えるべきところを2本の歯根で支えなければならないので、支える歯の負担は重くなります。

 

部分入れ歯はブリッジほどは歯を削りません。またインプラントのような手術は必要ありません。ですが、噛む力はインプラントやブリッジほどは強くはありません。

また、咬合力をはぐきの粘膜で支えるので、歯ぐきの骨が次第に減っていくという問題もあります。

 

3つの方法はそれぞれ良い面も悪い面もあるので、一概にこれしかないとは言えません。患者さんの状況により、ベストは異なると考えています。

 

噛む力

残る歯の負担

隣の歯を削る

手術

見た目

治療期間

放置

 

インプラント

90%

必要

49ヵ月

保険ブリッジ

60%

(奥歯)

1ヵ月

自費ブリッジ

60%

1.5ヵ月

保険部分入れ歯

30%

わずか

針金(クラスプ) 

1ヵ月

自費部分入れ歯

40%

わずか

クラスプ

1.5ヵ月