草津市の歯科医院でクラスターが発生しました。
それ以前から、SNSや報道などでは、「歯科医院は危険だ」とか「報道による風評被害だ」とか言われていたわけですが、今後もそのような声は高まっていくものと思われます。
ここで、現時点での私の考えを記しておきたいと思います。
歯科医院では患者さんは大きく口を開け、歯科医と助手は口から50㎝以内に位置して、数分から数十分治療するわけです。歯を削る回転切削器具からはエアロゾルが発生し、それは診療室内に広がります。患者さんが新型コロナウイルスを持っている場合、我々に感染するリスクは紛れもなく高いと言えるでしょう。
そこで、我々はマスク、グローブ、ガウン、フェイスシールドなどの防護具を装着し、診療室の換気を徹底し、誰かが触れたと思われる場所はアルコールでしつこく拭きまくり、指先がゴワゴワで指紋認証が認識してくれなくなるくらい手を洗っているわけです。
患者さんが来院したら、毎回体温測定をその場で行い、体調や濃厚接触歴を問診票に記入していただき、リスクの高い人の治療は延期することもしています。
ただ、そこまでやれば絶対に感染しないか?リスクはゼロか?というと、そうではないでしょう。うちの診療室の設備と対応が新型コロナウイルス感染症そのものの治療にあたっている感染症医療機関並みなわけがありません。
ですが、歯科治療をやらないことによるリスクもあります。痛みは取らないといけませんし、仮の歯が壊れたりすると治さないといけません。
「歯科治療か、コロナか」という二元論ではなく、「どのような状況ならばどのような歯科治療は許容されてどのような歯科治療は避けるべきなのか?」という判断が行われるべきなのです。
COVID-19のリスクがどのくらいで、歯科治療延期のリスクがどれくらいかはきっちり数字で出せるものではないので、それぞれの地域の流行の度合いや各歯科医師の見解で、どのような治療は行ってどのような治療は延期するかは異なってくるのは、ありだとおもいます。
この度は草津市の某医院からウイルス陽性者が複数出たわけですが、私はこの医院がどのような感染対策をとれていたのか、診療体制をどうされていたのかは知りません。ですが、この医院から感染者が出たことそのことをもって、彼らを責めることはするべきではないと思うのです。
今この日本では感染経路の追えない市中感染が広がっており、症状の無い不顕性感染者も相当数いるらしいということが次第に明らかになってきています。歯科医院に限らずどこでだれが感染者になるかわからないのです。
感染したことをもって、その人や組織が倫理にもとる行動をとっていたのではないかと推測して叩くのは間違いです。
これまで歯科医院ではクラスター発生の報告はありませんでした。しかしそれはこれまでの社会の中の感染率がそれほど高くなかった時は従来の感染対策でたまたま発生してなかっただけなのかもしれません。今後市中感染率が上昇していくと、どうでしょうか?
今後歯科医院で感染例があったとしても、それは万全といわれるような医院でも起きる可能性はあると思います。ただ、その数は恐らく全国の歯科医院の数に比べれば少ないものになるのではないかと(願望もすこしこめて)思います。
クラスター発生によっておそらく近隣の歯科医院ではさらに高度な感染対策を講じられたり、患者さん受け入れ基準の見直しが行われるでしょう。そうやって相反するリスク間のバランスを取っていくのが現実的な対応かと思います。
私は「歯科医院は危険だ」ということも「歯科医院は安全だ」ということもどちらも間違いだと思うのです。
歯科治療に伴うたまたま感染リスクはある、リスクを減らす方法(感染対策)はある、感染リスクを避けて歯科治療を全くしないことのリスクもある。
バランスをとることが大切で、そのバランスは感染率が変化すれば変わってくるでしょう。
当院でも今後患者さんの受け入れ方を考えていくつもりです。よろしくお願いします。
あと、当院では37.5℃以上の発熱があるスタッフは、休ませることに決めて毎朝検温を実施しています。
院長である私も毎朝検温しています。
幸いなことにいままで誰も発熱した人はいませんでしたが、今後はどうかわかりません。
もし私が発熱したら、その日は休診です。
ですから、休診になったからといって、「すわ、あそこもクラスターか?!」と決めつけないでくださいね。
感染したら内緒にせずに明らかにしますので。